執筆者:申請取次行政書士 安藤祐樹
日本に留学する外国人の数は年々増加しており、2023年末時点で340,883人の留学生が日本国内に滞在しています。日本政府は、2033年までに留学生を40万人まで増加させる方針を掲げており、今後も受け入れ人数は継続的に増加することが見込まれます。
しかし、留学生全体の3割程度を占める日本語学校に在籍する留学生の在留資格認定証明書(COE)交付申請の交付率は、他の在留資格と比較して著しく低い傾向があります。この記事では、「日本語学校のCOE申請が難しい理由」や「COE交付率を上げる方法」などCOE申請の重要なポイントを入管手続き理論に基づいて詳しく解説します。
※本記事内では、「日本語学校」という言葉を「告示日本語教育機関」及び「認定日本語教育機関」の意味で使用します。
日本語学校の特殊な収益構造
通常、大学や専門学校などの教育機関が日本国内の学生を受け入れる場合、契約の成立のために必要なものは学生と学校による当事者間の合意のみです。これは買い手と売り手が合意すれば契約が成立する一般的な商取引と同様で、取引の遂行に国家が介入することは基本的にはありません。
一方、日本国外から留学生を受け入れる場合は、当事者間の合意に加えて、その学生が日本の外国人受け入れ政策に合致する者であるか、入管庁による上陸審査が実施されます。したがって、日本語学校の収益は、当事者間の契約が成立した時点で決定するわけではなく、入管の上陸許可件数×納入金に近い数字となります。
このような収益構造は、教育業界のみならず他の多くの業界を見渡しても非常に特殊で、入管申請の結果を前提とした、ある種の成果報酬のような構造を成しています。「日本語教育」という役務を提供する事業者であるにも関わらず、入管申請という法律行為で収益が決まる日本語学校の事業運営の特殊性は、日本国内の学生に対して事業を営む他の教育機関とは一線を画しています。
在留資格認定証明書(COE)交付申請とは
在留資格認定証明書交付申請とは、外国人が日本に入国する前に行う事前審査制度のひとつで、英語表記の「Certificate of Eligibility」の頭文字を取って「COE申請」と呼ばれています。
外国人は日本に上陸する際に、空港等で入国審査官から上陸の許可を受けて在留資格を取得しますが、現代の複雑化した在留資格制度の下では、入国審査の際に全ての許可要件の適合性を短時間で確認することは現実的ではありません。
そこで短期滞在以外の在留資格の取得を希望する外国人に対し、事前に上陸許可の要件の一部に適合していることを審査し、その後の手続きを簡略化するために作られた制度が在留資格認定証明書交付申請です。日本に入国することを希望する外国人は、上陸時に在留資格認定証明書を入国審査官に提出または提示することで、上陸許可の要件適合性を容易に立証することができます。
日本語学校に留学することを希望する外国人が在留資格認定証明書交付申請を行う場合は、通常、入学予定の日本語学校の職員が代理人となってCOE申請を行います。在留資格認定証明書について詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。
日本語学校の「留学」のCOE交付率
日本語学校が代理人として行う「留学」のCOE申請の交付率は、令和5年の数字で約77%です。これは、令和5年のすべての在留資格のCOE申請の交付率が約92%であることと比較すると非常に低い数字です。
令和5年のCOE申請の審査完了件数は、全在留資格の合算で約65万件で、不交付処分は約5万4千件です。同年の日本語学校の留学のCOE申請件数は約12万件で、不交付処分は約2万7千件です。つまり、全在留資格のCOE申請の不交付処分のうち、約5割が日本語学校が代理人として行う留学のCOE申請ということになります。
上記の数字のうち、全在留資格のCOE申請に関するデータは出入国管理統計の公開情報に基づいており、日本語学校の「留学」のCOE申請の件数・交付率は、入管庁に行政文書開示請求をして取得した資料に記載の数字を集計して使用しています。
COE交付率は国ごとの経済力と相関する
令和5年の日本語学校の留学のCOE申請の交付率は約77%ですが、留学生の出身国によって交付率は大きく異なります。交付率が高い国の特徴を簡単に説明すると、経済力が高い国ほど数字が良くなる傾向があります。例年、交付率が9割を超えると言われている国は、すべて一人当たりの名目GDPが1万米ドルを超えており、一方で交付率が低いと言われている国は、一人当たりの名目GDPが1,000米ドル台の国が多いです。
日本政府は、日本語学校の留学のCOE交付率の国別の数字を公表していないため、正確な数字は不明ですが、日本に留学している外国人の国籍割合は判明しているため、国別の交付率をある程度推測することは可能です。例えば、日本に留学している外国人のうち、中国や韓国など一人当たりの名目GDPが1万米ドルを超えている国の出身者の割合は約58%です。このグループをAグループとします。
続いて、ベトナム、インドネシア、フィリピンなど一人当たりの名目GDPが3,000~1万米ドルの国をBグループとして、このグループの出身者の割合を計算すると約27%です。Bグループの国の出身者のCOE交付率は8割前後と言われています。
最後に、ネパール、ミャンマー、バングラデシュなど一人当たりの名目GDPが3,000米ドル以下の国をCグループとして、出身者の割合を計算すると約15%です。
上記の割合に基づいて、AグループのCOE交付率を90%、Bグループの交付率を80%と仮定すると、全体平均を77%にするためには、Cグループの交付率は計算上49%になります。この数字はあくまで推測値で、実際には同一グループ内でも交付率に差が生じるはずですが、過去に参議院の答弁で公開されたネパールのCOE交付率が5割前後であったことを考えると、国によっては4割台のCOE交付率になることも十分にあり得るでしょう。
※国別の一人当たりの名目GDPは2023年のIMF統計の数字を使用しています。
日本語教育機関に留学するネパール国籍の学生の認定証明書交付率に関する参議院の政府答弁:
参議院|参議院議員櫻井充君提出在留資格認定証明書に関する質問に対する答弁書
適正校クラスⅠの優遇措置について
適正校の選定制度は、「留学」の在留資格で日本に滞在する外国人を受け入れる教育機関のうち、適正な在籍管理を行っている教育機関に対し、在留資格審査の際の提出書類の簡素化を認める優遇措置制度です。入管法令に適正校の選定に関する根拠規定はありませんが、出入国在留管理庁が独自に制度を設計し運用しています。
適正校にはクラスⅠとクラスⅡが存在し、クラスⅠに選定されると提出書類が大幅に簡素化されます。入国・在留審査要領には、適正校(クラスⅡ含む)かつ慎重審査対象国以外の出身者からの申請について「教育機関が入学を許可した事実を尊重し、経費支弁能力を有するものとして取り扱う」と記載されており、経費支弁能力を立証する資料の提出は省略されます。出入国在留管理庁は、「提出書類以外の取扱いは、クラスⅠとクラスⅡで違いはない」と公表していますが、クラスⅠの場合は、慎重審査対象国の出身者に対しても同様の取扱いとなっており、提出書類だけでなく、審査要件についても実質的に緩和されていると解釈できます。なお、慎重審査対象国のうち、申請数の多い国の例としては、ベトナム、インドネシア、ネパール、スリランカ、ミャンマー、バングラデシュなどがあります。
そのため、適正校クラスⅠを目指すことは、教育機関がCOE交付率を改善するための王道的な戦略であると言えます。ただし、適正校クラスⅠに選定されるためには、問題在籍率が3年連続1パーセント以下であることなどの要件を満たす必要があり、将来にわたってクラスⅠを維持し続けることは容易ではありません。適正校クラスⅠから外れた場合にCOE交付率が激減するようでは、安定した経営とは言えず、適正校選定のみに頼り続ける事業戦略は得策ではありません。
また、適正校選定の優遇措置は、入管法に基づくものではなく、行政機関である出入国在留管理庁の裁量で独自に行っている措置であるため、制度としての安定性がなく、COE交付率の優遇が保証されているものではありません。そのため、COE交付率を長期にわたって安定させるためには、入管法の審査基準を分析し、法律に基づいて許可を取得するために、立証資料を補強するなど、行政手続きの本来あるべき道を追究すべきと言えます。
参考:出入国在留管理庁|教育機関の選定について
(URL:https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyuukokukanri07_00024.html)
COE交付率のシミュレーション
日本語学校が行う留学のCOE申請は、一度に数十件程度の申請を行うことが多いです。これを仮に、交付率50%の精度で毎回30件申請し、それを100回(合計3000件)繰り返した結果をプログラムでシミュレーションすると、一回あたりの交付率の最高値は73.3%、最低値は26.7%でした。また、60%以上の交付率となった回数は14回、40%以下の交付率となった回数は16回でした。
これは、常に50%の確率で交付・不交付を決定するクジ引きのようなシミュレーション値であるため、様々な外部要因によって結果が変動する実際のCOE申請とは異なりますが、数十件程度の母数の少ない申請では、交付率が毎回大きく変動することを示しています。また、詳細は後述しますが、COE交付率の変動要因は単純な確率論以外の部分にも存在します。そのため、運に左右される短期的な交付率の結果を基に申請の精度を把握したり、長期的な交付率を予測したりすることは困難です。
日本語学校がCOE交付率を改善するためには、それぞれの申請資料が入管法のどの要件の適合性を立証しているのかをしっかりと理解し、何が足りないのかを理論立てて推測していくことが重要です。
理論上COE交付率を100%にする方法
日本語学校の行うCOE申請の交付率は、確率の下振れ以外にもさまざまな低下要因が存在します。理論上は、以下の3つの交付率低下要因を排除することができれば、COE交付率は常に100%になります。
入国審査官の要件適合性判断のぶれに対処する
COE申請の審査は、効果裁量のない羈束行為(きそくこうい・要件に適合する場合は必ず交付処分をしなければならない行政行為のこと)であり、要件適合性の判断についても本来は裁量の余地はありません。しかし、実務上は個々の審査官の要件適合性の判断には大きな差があるため、同じ精度の申請を繰り返したとしても、毎回の審査結果は大きく異なります。
この入国審査官の要件適合性判断のぶれを回避するためには、たとえ判断基準が厳しい審査官に当たったとしても、交付要件に適合していると判断される程度の水準まで申請の精度を高める必要があります。本来、審査官によって審査結果が大きく異なることは、審査の公平性の観点から望ましいことではありませんが、入管法が規定する許可(交付)要件が抽象的であることや、判断基準が厳しい審査官の方が法律上の要件を忠実に当てはめている事実を考慮すると、申請人側も一定程度の審査結果のぶれを許容した上でCOE交付率を高める戦略を考えるべきと言えます。
以下の画像は、同じ精度の申請を行った場合でも、審査官によって交付・不交付の判断基準が異なることを視覚化したものです。
上の2枚の画像から分かる通り、同じ精度の申請をしたとしても、COE交付率は30%にも70%にもなり得ます。このような結果を回避するためには、下の画像のように、厳しい審査官の場合でも審査基準に適合していると判断される水準に申請の精度を高めることが必要です。
入学者選考基準とCOEの審査基準を連動させる
日本語学校の入学者選考は学校側の裁量で自由に行うことができますが、入管法の審査基準は学校の意思で動かすことはできません。そのため、高いCOE交付率を目指すためには、入学者選考の基準を入管法の審査基準に合わせる以外に方法はありません。
例えば、学生の日本語学習に対する意欲や日本語能力について、入国・在留審査要領には、勉学の意思及び能力の確認は提出資料から「学歴」および「語学力」で審査すると説明されており、学歴は卒業証明書によって確認し、語学力は試験の証明書を提出するよう努めさせると記載されています。つまり、面接等で学習意欲が高いと判断できたとしても、その事実を立証できない限りは、COEの審査における好材料とはなりません。
COE申請において、審査基準を満たしていることの立証はすべて書面で行うことが原則であるため、平均交付率が低い国の学生を選考する際は、審査基準をしっかりと見極めたうえで、要件適合性の書面立証が可能かどうかを判断しながら入学者を選考することが重要です。入学者選考の際に入管の審査基準を満たさない人を選んでしまうと、売り上げに繋がらないだけでなく、COE申請などの事務負担で膨大な労力を消費することとなります。後述する立証資料の補強と併せてどのような選考基準を策定するか緻密に戦略を練ることが重要です。
COE申請の立証資料を補強する
入管庁のウェブサイト上に記載されている、日本語学校の在留資格「留学」のCOE申請の提出書類は、基本的に入管法施行規則に規定されている書類を案内しているに過ぎず、立証のために十分な資料が要求されているとは言えません。また、この提出書類の案内は別表掲載国を除きすべて同じ書類を要求していますが、COE交付率は国によって大きく異なるため、入管の案内する資料をそのまま提出すると、交付率の低い国の出身者の場合、立証不十分と判断される可能性が高まります。COE申請の立証責任は申請者(代理人)側にあるため、どのような立証資料を提出するのかを自ら判断する姿勢が必要です。
また、「留学」の在留資格のCOE申請は、申請人(入学希望者)と代理人(学校)の関係性が薄く、一度に申請する件数も多いため、他の在留資格のCOE申請と比較すると、一件ごとの申請資料の補強が不十分な場合が多いです。例えば、国際結婚をした夫婦の一方が、外国人配偶者のために「日本人の配偶者等」のCOE申請をする場合、不交付なら別の人で再申請というわけにはいかないため、必ず申請を通すために可能な限りの立証を尽くすのが通常です。
留学のCOE申請は一度に申請する件数が多く、期日に迫られながらの対応であるため、追加資料の作成など業務量を増やす選択をするのは簡単なことではありません。しかし、入管法第七条第一項第二号に規定されているCOE申請の原則的な交付要件は、どの在留資格にも平等に適用されるため、交付率を改善するためには立証資料を補強することが不可欠です。
入管法のCOE交付要件
外国人が日本に上陸するために満たさなければならない上陸許可要件は、入管法第七条第一項に規定されています。そのうち、COE申請で審査されるのは、入管法第七条第一項第二号の3要件(在留資格該当性、上陸許可基準適合性、活動の非虚偽性)です。COEの交付処分は、効果裁量のない羈束行為(きそくこうい・要件に適合する場合は必ず交付処分をしなければならない行政行為のこと)であるため、交付要件に適合していると判断された場合は、必ずCOEが交付されます。以下に、COE申請の交付要件を詳しく解説します。
在留資格該当性
在留資格該当性とは、申請人(外国人本人)が日本で行う予定の活動が、入管法に規定されている各在留資格の活動内容に該当しているかを判断するための基準のことです。「留学」の在留資格の場合、「大学や専門学校、日本語学校などで教育を受ける活動」に該当することが求められます。在留資格該当性の判断基準に関して、押さえておくべきポイントは以下の2点です。
- 主たる活動の内容が入管法に規定されている教育機関で教育を受ける活動であること
例えば、滞在の主目的が入管法に規定されていない教育機関で教育を受ける活動である場合には、在留資格該当性が否定されます。また、資格外活動許可を得て許可の範囲内で就労活動を行う場合であっても、主たる活動の内容が就労活動であるとみなされる場合は在留資格該当性が否定される可能性があります。 - 留学の在留資格に該当する活動を在留期間内に安定的・継続的に行うことができること
これは、申請や許可の時点だけでなく、予定する在留期間全体に渡って在留資格該当性があると認められる必要があるという意味です。留学を予定する申請人の健康状態に不安がある場合や、留学生を受け入れる教育機関側の経営状況に問題がある場合などは在留資格該当性が否定される可能性があります。
なお、実務上、日本語学校が行う「留学」のCOE申請において在留資格該当性が否定されて不交付処分となる可能性は高くありません。ただし、健康状態や入国目的の矛盾などは、COE交付後に在外公館で行う査証(ビザ)発給申請において上陸拒否事由に該当するとして、査証発給拒否処分の理由となり得るため、入学者選考の段階でしっかりと詳細を確認しておくべきです。
上陸許可基準適合性
上陸許可基準適合性とは、「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(上陸基準省令)」に規定されている要件に適合していることを求める基準のことです。日本語学校の留学のCOE申請の場合、適合しなければならない基準は、「経費支弁能力があること」「教育機関の在籍管理が適正であること」「教育機関が告示日本語教育機関または認定日本語教育機関であること」の3点です。
経費支弁能力とは、学費、教材費、住居費、交通費、食費、渡航費用、その他一切の生活費を含む経費を支弁する能力のことです。申請人本人だけでなく他人が経費を支弁する場合でもこの要件を満たすものとされますが、他人支弁の場合は、申請人と支弁者の関係性などから滞在費を支弁することについて合理的な理由がないと判断された場合、COE不交付の理由となり得るため注意が必要です。
また、日本国内に滞在する留学生はアルバイトをすることが認められますが、入管庁は、アルバイトで得る収入の見込み額を「留学の在留資格で安定継続的に在留するに足りる費用を除いた生活費を補う手段の一つとして差し支えない」と説明しています。つまり、学費や最低限の生活費などはアルバイト報酬に頼らずに支払いできる能力を確保していなければならないが、外食費や交際費等は、COE申請の段階からアルバイトで補うものとして見積もっても問題ないと解釈できます。
なお、日本に入国した後にアルバイト活動をして、結果として生活費の大部分をアルバイト収入で補うこととなった場合、当初の経費支弁の計画とずれることになりますが、申請人本人が合法的にアルバイト活動で得た収入を生活費に充てることは問題ありません。ただし、その場合であっても経費支弁者の支弁能力そのものは確保し続けていなければなりません。
実務上、COE審査において、上陸許可基準適合性が否定されて不交付処分となる可能性は高くありません。上陸許可基準適合性の審査の大部分は経費支弁能力に関するものですが、書面上の数字に問題がなければ基準に適合しているものとして取り扱われるため、経費支弁能力が不交付理由となる場合は後述する活動の非虚偽性が否定されることが多いです。
活動の非虚偽性
活動の非虚偽性とは、入管法第七条第一項第二号に規定されている「申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく」という文言を、上陸のための許可要件の一つとして類型化したものです。COE申請の時点において、外国人が日本で行う活動とは申請人の未来の予定であるため、活動が真実であることの立証まで求められるわけではなく、「社会通念上虚偽のものではないということができるかどうか」を立証することで足りるものとされています。具体的には、申請資料・添付資料の内容に不合理な点がなく、申請に至った経緯についても不合理な点がないことをもって、活動の非虚偽性は証明できていると考えて問題ありません。
活動の非虚偽性の判断基準には、申請人(代理人)が提出した申請資料だけでなく、申請人の過去の行為やその他の裏付け資料なども一定程度含まれます。COE申請の際に「在留資格該当性」や「上陸許可基準適合性」の立証資料の内容に信ぴょう性が疑われるような点が認められる場合は、「活動の非虚偽性」に該当しないことを理由に不交付処分が決定されます。
日本語学校が代理人として行うCOE申請の不交付処分の大半は、活動の非虚偽性の立証が不十分であることが原因です。その中でも、「経費支弁能力」や「学歴」に関する立証資料は、活動の非虚偽性の不適合が疑われる原因となりやすく、COE交付率の改善のためには、この部分を補強することが最も重要です。
COE交付率改善のために必要なこと
COEの交付率改善に効果のある対策は数多くあります。交付率を改善するのは簡単なことではありませんが、試行錯誤しながら上手に申請している学校も一定数存在します。以下に、COE交付率改善のために必要な考え方を4つ詳しく解説します。
COE申請に関するすべての意思決定に理由付けをする
COE申請の結果に影響を与える要因には、仲介者とのコネクションづくり、書類選考、入学者に対する面接、入学試験、申請資料の収集・作成、不交付理由の分析などがあります。交付率を改善するためには、これらすべての行動一つ一つの意思決定の理由を明確化し、後にそれぞれの行動から得られた効果を検証する体制を構築することが重要です。
例えば、仲介者との取引については何社(何校)とコネクションを結ぶべきか、書類選考時に何を確認すべきか、面接で何を質問するか、面接や入学試験で確認した内容をどのように申請資料に落とし込むか、学生からどのような資料を収集すべきか、理由書などで情報を補足すべきか、入管への不交付理由のヒアリング時に何を聞くべきか、不交付理由の一覧から何を確認すべきか、これらすべてに理由付けを行い、それぞれの意思決定に対して地道に効果を測定していくことが交付率改善への近道です。
不交付理由一覧や申請資料一式から不交付の原因を推測する
COEの不交付処分の際に入管から不交付理由の一覧が通知されますが、この資料と申請資料一式から不交付の詳細な原因を推測し、それに対する改善策を練ることが交付率改善のためには重要です。その際、特定の書類の名前よりも、入管法令のCOE交付要件のどの部分に不適合であったのかという内容に焦点を当てることが必要です。
例えば、残高証明書の信ぴょう性がないと判断されて不交付処分になった場合、職業を立証する資料や収入を立証する資料の信ぴょう性も疑われることとなるため、「経費支弁能力」を立証する資料全体を補強する意識を持つことが重要です。入管法令が提出を要求しているのは「経費の支弁能力を証する文書」であって、残高や職業の立証資料単体で要件適合性が判断されるわけではありません。
平成16年10月1日法務省管在第5964号通達には、COE不交付処分などの不利益処分をする場合、法令の定めるいずれの要件に適合しないのか正確な事実認定に基づき判断し、申請者に対しても法令に定めるいずれの要件に適合しないかを明示しなければならないと記載されており、これが不交付理由開示の根拠となっていると考えられます。不交付処分とは、法令上のいずれかの要件に不適合であるという意味であり、残高証明書や卒業証明書、経費支弁書などそれぞれの書類に対して適合・不適合の結果が出るわけではないことを理解し、不交付理由の一覧を正確に読み解く知識を備えておくことが求められます。
活動の非虚偽性についての理解を深め立証資料を補強する
COE申請には、活動の非虚偽性という要件があり、日本語学校のCOE申請では、この要件の適合性を否定されて不交付処分になることが多いです。つまり、入国審査官は申請内容が虚偽であることを疑ってCOEの審査をしていると言い換えることもできます。交付・不交付の処分を受ける対象は外国人本人であるとはいえ、日本語学校の申請担当者も、代理人として、虚偽であることを疑われる申請に向き合うのは非常にストレスがかかることです。
入管法には、営利目的在留資格等不正取得助長罪の罰則規定があるため、代理人も在留資格の不正取得に関与したと判断されれば処罰される可能性があります。しかし、COE申請で「活動の非虚偽性」が否定される場合であっても、いわゆる「虚偽申請」という刑事罰の対象となる犯罪行為とは意味合いが異なるため、虚偽ではないことの立証をするために学校側が本来すべき行動をしていれば、代理人として大きなリスクを背負うことはありません。やるべきことは、「活動の非虚偽性」の立証に真正面から向き合い、違法行為や不正行為を行わずに書面で要件適合性を立証することです。
また、日本語学校が入学者を選考し、代理人としてCOE申請をする際に、申請人(外国人本人)との間に現地の日本語学校などが仲介者として入ることが多いですが、申請書類に仲介者の意思が反映されないように注意してください。留学のCOE申請において意思表示を伴う文書を作成するのは、申請人と代理人以外では経費支弁者と証明書等を発行する公的機関のみです。仲介者が深く介入しすぎている申請は、「活動の非虚偽性」が否定されて不交付処分となる可能性が高まるため、申請の意思表示を伴わない行為(通訳、翻訳、郵便、電話やメール等の取次など)のみ行うよう、仲介者をコントロールする必要があります。
理由書などで入国審査官の要件適合性判断を誘導する
入国審査官は、入管法やその他の法令に基づき要件適合性の判断をします。法令や通達に反して審査をすることはできないため、入管法や入国・在留審査要領などの文言を引用して要件適合性を主張することで、審査の際に入国審査官が抱く印象を良い方向に誘導できる場合があります。
例えば、理由書などで「どのような基準に基づき学生を選考したのか」「どのような理由で入管法の各要件に適合していると判断したのか」を入国審査官に伝えることができれば、学校が適正な入学者選考を行っていることや、学校が入管法を深く理解していることをアピールすることができます。
また、平成16年10月1日法務省管在第5964号通達には、「反証の機会を与えることなく不利益処分をすることは許されない」と記載されているため、申請の際は理由書などでこの通達を引用しつつ「いずれかの要件に適合しないと判断される場合は、そのまま不交付処分とするのではなく、可能な限り反証の機会を与えてくださいますようお願い申し上げます」などと一文添えておくと効果的です。
まとめ
この記事では、日本語学校が代理人として行う「留学」のCOE申請の交付率が他の在留資格のCOE申請と比べて低くなってしまう要因や、交付率改善のための対策について解説しました。
COE申請は日本語学校の売り上げに直結する非常に重要な事務手続きです。交付率改善のためには、COE申請が難易度の高い法律行為の代理手続であることを意識し、目標を定めてしっかりと改善策を練ることが大切です。入管法は学問的に体系化されているとは言い難く、COE申請の隅々まで理解することは簡単なことではありませんが、専門家に相談するなどして、より良い結果を目指してください。