執筆者:申請取次行政書士 安藤祐樹
「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」の在留期間更新に際して、「毎回短い在留期間しか取得できない」と悩む外国人や企業の申請担当者は少なくありません。この記事では、技人国の在留期間決定のルールと、3年の在留期間を取得するために役立つ知識を詳しく解説します。
3年の在留期間を得ることのメリット
3年の在留期間を得る最大のメリットは、毎年の更新が不要になることです。長い在留期間を取得することで、企業側にとっては、外国人従業員を責任あるポジションに配置しやすくなり、外国人本人にとっては、審査で余計なストレスを受ける回数を減らすことができます。
また、3年の在留期間を有していることは、永住許可申請をする上でも必須の要件になっています。
技人国から永住許可を取得する場合、法令上の規定では本来5年の在留期間を有していることが必要ですが、当面は3年で要件を満たすものとして取り扱われています。
※申請時点で3年の在留期間を有していても他の要件(引き続き10年在留していることなど)に適合しない場合は永住許可は取得できません。
参考:出入国在留管理庁|永住許可に関するガイドライン
(URL:https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan50.html)
所属機関のカテゴリーについて
技人国の在留期間を決定するルールを確認する前に、「所属機関のカテゴリー」について理解しておく必要があります。カテゴリーは全部で4つあり、事業規模などによって分類されます。所属機関とは外国人と雇用契約を締結する企業や個人のことです。
所属機関のカテゴリーの一覧
カテゴリー1(次のいずれかに該当する機関) |
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1.日本の証券取引所に上場している企業 |
2.保険業を営む相互会社 |
3.日本又は外国の国・地方公共団体 |
4.独立行政法人 |
5.特殊法人・認可法人 |
6.日本の国・地方公共団体認可の公益法人 |
7.法人税法別表第1に掲げる公共法人 |
8.イノベーション創出企業 |
9.一定の条件を満たす企業等 |
カテゴリー2(次のいずれかに該当する機関) |
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1.前年分の給与所得の源泉徴収合計表の源泉徴収税額が1,000万円以上ある団体・個人 |
2.カテゴリー3に該当することの立証資料を提出した上で、在留オンラインシステムの利用申出が承認された機関 |
カテゴリー3 |
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前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表が提出された団体・個人(カテゴリー2を除く) |
カテゴリー4 |
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カテゴリー1、2、3のいずれにも該当しない団体・個人 |
法定調書合計表のこの部分を確認する
カテゴリー2と3のどちらに該当するか判断するには赤枠の部分の金額を確認します。
源泉徴収税額が1,000万円以上の場合はカテゴリー2に該当し、1000万円未満の場合はカテゴリー3に該当することとなります。よくわからない場合は顧問税理士などに確認してみてください。
技人国の在留期間決定のルール
所属機関のカテゴリーが確認できたら、在留期間の条件を見ていきましょう。
申請人(外国人本人)の義務の履行状況や就労予定期間、所属機関のカテゴリーなどから、何年の在留期間が付与される可能性が高いか判断できるはずです。
5年の在留期間の条件
5年の在留期間を得るためには以下4つの要件のすべてに適合する必要があります。
- 申請人が入管法上の届出義務(住居地、所属機関変更の届出など)を履行していること
- 義務教育期間の子がいる場合は、義務教育学校(インターナショナルスクール含む)に通学していること
- 就労予定期間が3年を超えること
- 「所属機関がカテゴリー1またはカテゴリー2に該当する」または「3年以上の在留期間が付与されている者で引き続き5年以上技人国の活動を行っている」のいずれかに該当する
所属機関がカテゴリー1または2の場合は比較的容易に5年の在留期間を得ることができます。技人国の在留資格で許可される最長の期間が5年であるため、可能であれば上記4つの要件を満たすことを目標にしてください。なお、上記の要件を満たしていても、公的義務の履行状況や従事する業務の内容などにより短い在留期間を決定される場合もあります。
3年の在留期間の条件
3年の在留期間を得る方法は、3つのパターンがあります。
パターン1:以下のすべてに適合していること
- 申請人が入管法上の届出義務(住居地、所属機関変更の届出など)を履行していること
- 義務教育期間の子がいる場合は、義務教育学校(インターナショナルスクール含む)に通学していること
- 就労予定期間が1年を超え3年以内であること
- 「所属機関がカテゴリー1またはカテゴリー2に該当する」または「3年以上の在留期間が付与されている者で引き続き5年以上技人国の活動を行っている」のいずれかに該当する
このパターンの内容を要約すると、就労予定期間が1~3年で、他の部分は5年の在留期間決定の要件と同一です。所属機関がカテゴリー1または2の場合は比較的容易に3年の要件を満たすことができます。
5年の在留期間を与えても問題ない良好な在留状況であるが、就労予定期間が3年以内であるため、3年の在留期間を付与しようというイメージです。
パターン2:以下のすべてに適合していること
- 5年の在留期間を決定されていた者
- 「申請人が入管法上の届出義務を履行していない」または「義務教育期間の子がいるにも関わらず義務教育学校に通学していない」のいずれかに該当する
- 「所属機関がカテゴリー1またはカテゴリー2に該当する」または「3年以上の在留期間が付与されている者で引き続き5年以上技人国の活動を行っている」のいずれかに該当する
- 就労予定期間が1年を超えること
例えば、以下のような状況がこのパターンに該当します。
例1:技人国で5年の在留期間を得ていた人が、上場企業(カテゴリー1)に転職したが所属機関変更の届出を忘れていた。
例2:技人国で5年の在留期間を得ていた人が、引っ越しをしたが住居地変更の届出期限を過ぎてしまった。
5年の在留期間を得ていた人が義務の履行を怠ってしまった場合に、3年に格下げされるイメージです。
パターン3:在留期間5年、1年、3カ月いずれにも該当しないもの
このパターンは非常に重要です。毎回1年の在留期間しか取得できない場合でも、理論上、後述する1年と3カ月の在留期間の条件に該当しないよう準備をすることで、3年以上の在留期間を得る可能性を高めることができます。
1年の在留期間の条件
1年の在留期間は以下4つのパターンのいずれかに該当する場合に決定されます。
パターン1:以下に該当するもの
- 所属機関がカテゴリー4に該当する
カテゴリー4に該当する所属機関とは、前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表を提出していない団体・個人のことです。
パターン2:以下2つの要件のどちらにも該当するもの
- 3年または1年の在留期間を決定されていた者
- 「申請人が入管法上の届出義務を履行していない」または「義務教育期間の子がいるにも関わらず義務教育学校に通学していない」のいずれかに該当する
義務の履行を怠ると3年の在留期間を得ることが難しくなるので気を付けましょう。
パターン3:以下に該当するもの
- 職務上の地位、活動実績、所属機関の活動実績等から、在留状況を1年に1度確認する必要があるもの
この要件は非常に重要です。毎回1年の在留期間しか付与されず、その原因もわからない場合は、このパターンに該当している可能性が高いです。審査官に、「在留状況を1年に1度確認する必要はない」と判断させることができれば、3年の在留期間を取得できる可能性が高まります。在留期間更新許可申請の際は、職務上の地位や活動実績などを積極的にアピールすることを心掛けましょう。
パターン4:以下に該当するもの
- 就労予定期間が1年以下であるもの
就労予定期間が1年以下の場合、原則として1年の在留期間が決定されます。なお、有期雇用などで契約の残存期間が1年以下の場合でも、過去の実績などから契約の更新が見込まれるものは、このパターンに該当しないと判断されることもあります。
3カ月の在留期間の条件
3カ月の在留期間が付与される条件はひとつだけです。
- 就労予定期間が3カ月以下であるもの
3年の在留期間を取得するために知っておくべきこと
ここまでの流れで、3年の在留期間を得るためには、「所属機関がカテゴリー2以上であること」または「所属機関がカテゴリー3で、かつ1年または3カ月の在留期間決定の要件に該当しないこと」が重要であるとわかりました。
カテゴリー2以上で3年の期間を得るために必要なこと
カテゴリー2以上の場合は、届出義務などをしっかりと履行していれば、比較的容易に3年の在留期間を得ることができます。このカテゴリーに該当する場合は、業務の内容の詳細や採用の理由、長い在留期間の必要性などを追加資料で補強していけば、5年の在留期間が付与される可能性も十分にあります。
- 所属機関がカテゴリー2以上
- 申請人が入管法上の届出義務を履行している
- 義務教育期間の子がいる場合は、義務教育学校に通学している
- 就労予定期間が1年を超えている
カテゴリー3で3年の期間を得るために必要なこと
カテゴリー3で3年の在留期間を得るためには以下5つの要件に適合する必要があります。
④の立証は難しいですが、後述する「所属する会社のカテゴリーを上げる方法」も含めて対策を検討してください。
- 所属機関がカテゴリー3
- 申請人が入管法上の届出義務を履行している
- 義務教育期間の子がいる場合は、義務教育学校に通学している
- 活動実績などから在留状況を1年に1度確認する必要はないと判断される
- 就労予定期間が1年を超えている
その他在留期間の決定に影響を与える要因
その他にもいくつか在留期間の決定に影響を与える要因がありますので紹介します。
- 実務研修期間がある場合その内容
- 申請人の納税義務の履行状況
- 申請人の年金その他社会保険の納付義務の履行状況
- 申請人の刑事処分歴
- その他素行が善良でない場合
所属する会社のカテゴリーを上げる方法
3年の在留期間を取得するためには、まず所属機関のカテゴリーを上げることができないか検討しましょう。毎回短い在留期間しか取得できない場合、所属機関がカテゴリー3に該当している可能性が高いため、以下の2つの方法を紹介します。
カテゴリー1に上げる方法
所属機関が「一定の条件を満たす企業等」のいずれかに認定されれば、技人国の審査でもカテゴリー1の機関として扱われるため、長い在留期間を取得しやすくなります。認定制度の詳細については、各省庁のウェブサイトを確認してください。業種を限定しているものや、事業規模が大きくないと認定を受けるのが難しいものもありますが、「健康経営優良法人」などは中小企業でも比較的認定を受けやすいです。
参照:出入国在留管理庁|一定の条件を満たす企業等について
(URL:https://www.moj.go.jp/isa/content/930004712.pdf)
カテゴリー3から2に上げる方法
カテゴリー3に該当する所属機関は、「申請等取次者証明書」を取得した上で、郵送または窓口で在留申請オンラインシステムの利用申出を行い、オンライン申請の取次の承認を受けることでカテゴリー2に移行することができます。
「申請等取次者証明書」とは、外国人の在留資格に関する諸手続きにおいて、外国人本人(または代理人)が地方出入国在留管理局へ自ら出向いて手続きを行う「本人出頭の原則」を免除するために、所属機関の職員などが、あらかじめ地方出入国在留管理局長の承認を受けて取得する取次資格証明書のことです。所属機関の職員が申請等取次者証明書を取得する場合は、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 過去に入管法違反や入国・在留管理などの不正行為を行っていないこと
- 研修会などに参加して入国・在留手続に関する知識を有していると認められること
なお、この方法でカテゴリー2に移行する場合であっても、申請時には「カテゴリー3に該当することを立証する資料」の提出が必要です。
参考:出入国在留管理庁|申請等取次制度について
(URL:https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/nyuukokukanri07_00262.html)
参考:出入国在留管理庁|申請等取次者としての承認手続
(URL:https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/nyuukokukanri07_00248.html)
参考:出入国在留管理庁|在留申請のオンライン手続
(URL:https://www.moj.go.jp/isa/applications/online/onlineshinsei.html)
審査の立証資料を補強する
カテゴリー3の企業で働く外国人が、技人国で3年の在留期間を得るためには、審査の際に審査官から「活動実績などを審査した結果、在留状況を1年に1度確認する必要はない」と判断される必要があります。そのため、3年の在留期間を取得するためには、立証資料を補強して活動実績をアピールすることが重要です。
また、カテゴリー2以上の企業で就労する場合であっても、立証資料を補強することで、より長い在留期間が決定される可能性を高める効果があります。
活動内容詳細を詳しく記載する
技人国の申請書には、仕事の内容を説明する「活動内容詳細」の項目がありますが、申請書には記入スペースが2行しかありません。入国審査官も短い文章だけでは、業務の内容が本当に技人国の在留資格の活動に該当しているのかわからないため、「今回は1年の期間を与えて様子見しよう」と判断されやすくなります。この部分を補強するためには、申請書に「別添採用理由書参照」「別紙活動内容の詳細説明書参照」などと記載して、業務の内容を具体的に記載した追加資料を提出しましょう。
※追加する資料の名前は任意に決定して問題ありません。
なお、業務の内容の詳細を説明する資料は、原則として、技人国の外国人を雇用する企業の職員が作成してください。活動内容詳細は「所属機関作成用」の申請書内の記載項目であり、所属機関側の意思で内容を決定するものであるため、追加資料も原則通り所属機関が作成すべきです。
記載内容は、1日のスケジュールや従事する業務の詳細をA4で1枚程度、できる限り具体的に説明しましょう。時期によって業務内容が変わる場合は、年間スケジュールなども記載します。業務の内容を詳細に説明した上で、入国審査官に「間違いなく技人国の活動に該当する」と思わせることができれば、在留状況を1年に1度確認する必要はないと判断してもらえる可能性が高まります。
なお、実務研修期間が設けられている場合は、研修の内容についても詳細を説明しましょう。研修期間中に技人国に該当しない業務に従事する場合は、原則として1年の在留期間しか与えられませんが、長い在留期間を得るために事実を隠すようなことはしないでください。
3年の在留期間の必要性を説明する
その外国人に対して長い在留期間を与えることで企業が得る恩恵などを説明しましょう。例えば、「その外国人をより責任のあるポジションに配置する必要性」や「長期的な経営戦略の遂行にその外国人が必要である理由」など、納得感のある説明をすることができれば、3年の在留期間を得られる可能性は高まります。
作成する補足資料の題名は、「申請理由書」「採用理由書」など自由に決定しても大丈夫です。活動内容詳細を説明する書類の中に記載しても問題ありません。
所属機関側の活動実績をアピールする
入国審査官が在留資格審査の際に使用する内部規則「入国・在留審査要領」には、申請人だけでなく所属機関側の活動実績についても在留期間決定の考慮事項になることが明記されています。所属機関の「外国人採用の実績」や「技人国の外国人が従事する業務分野の経営実績」、「入国・在留管理制度に対する理解」があることなどを積極的にアピールしましょう。
まとめ
この記事では、技人国の在留資格申請の際に、長い在留期間を取得する可能性を高める方法を紹介しました。順序としては、まず所属機関のカテゴリーを上げる方法がないか確認し、その上で「活動内容の詳細」「長い在留期間の必要性」「所属機関の活動実績の説明」など立証資料補強の検討をするのが良いでしょう。在留資格審査は、「申請人(外国人本人)」と「所属機関」の双方が協力して申請する意識を持つと、良い結果につながる可能性が高まります。